次論公論

 
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僕はスリープライスショップから眼鏡屋歴を始めた。元は外食チェーン、その前は現場作業員。まるで違う業種を渡り歩いて来た。その経験は今の仕事にも役に立っているし、専門店の経営をしながらチェーン店側からの視点があったりその懐の広さを得た事が何よりの収穫だった。それぞれの立場で主張がありそれぞれの仕事毎の正義が存在した。だから僕は新自由主義に対しては否定的でありながら量販店や激安店の存在そのものを否定するつもりは毛頭なくそれぞれの立場で各々はベストを尽くせば良い思っている。だが現状、日本の眼鏡業界はそればかりになってしまっている事を問題視しているのだ。困った方々の拠り所が年々少なくっている事を危惧している。

そんな偉そうに業界分析をしている僕も自分のお店を立ち上げる迄は前述したようにスリープライスショップという激安店で働いていた。そこでの経験は今の僕のこのブログを書くモチベーションにもなっている。

「これでいいんだろうか?いや、これじゃいけない。」

と強く思うようになったのだ。つまりこの業態の経験そのものも僕の業界改革の為の取り組みのモチベーションそのものかもしれない。

そこで僕は

「やった~!検査時間が5分切った。」

と喜び他のアルバイトさんや社員さんとその度数を決定する為の時間を短縮させる技を競っていた。今考えれば恐ろしいし当時僕が作った眼鏡を今の僕が見ればきっと顔を真っ赤に染めて恥ずかしがるに違いない。今の僕にすれば眼鏡という形をした雑貨にきっと見えるだろう。ただし今の眼鏡屋の激安店では更に過激に検査時間を短縮し効率化を図っているお店もある。この効率化の過程で眼鏡の道具としての機能性が真っ先に省かれていったのは本ブログでは耳タコ話であろうから割愛させていただく。実際に検査に5分も掛けずに済ませている業態もあるそうなので当時の僕の検査も今の激安店の基準からすれまだマシかもしれない。でも当時の僕は検査技量の向上をイコール時間の短縮と誤解していたもののその検査そのものはそれ程辛くなかった。

辛かったのは実は単価UPという接客スタイルだったのだ。

スリープライスショップという価格を三つに分けて販売するスタイルで

「え!?単価なんて上げようがあるの?」

とこれを読んでいる方は驚かれるかもしれない。それがあるのだ。例えば度の強い人は非球面レンズという設計でないと作れない。または更に度の強い人は1.67という超高屈折素材の非球面レンズでないと作れない。こういった現実があった。まだスリープライスショップが珍しかった頃、その一式単価が

「お客様のお度数ですと、薄型レンズでないと作れないのでプラス◯◯◯◯円加算になります。」

こう伝えると

「あ~、やはりね。」

と明らかに落胆される方や、中には怒り出す方もいらっしゃった。このレンズの制作範囲上の限界が顧客満足度を下げる直接的な原因となりその後の眼鏡市場に代表されるワンプライスショップ登場の原因ともなったのは言うまでもない。

僕の所属した会社の話に戻るが、その会社は当時としては珍しく球面レンズと非球面レンズと両方共に在庫し度の強い人には非球面レンズという設計も在庫でご用意し即日渡し出来ますよと謳いお店のウリにしようとしていた。それ自体の理念は素晴らしいと今でも思っている。だが現場ではそうはいかなかった。最初は度の強い人には非球面をお勧めしようという会社の方針だった。だが会社の経営が傾き始めるとその非球面レンズを誰にでも奨めようと方針転換した。それこそ伊達眼鏡のお客様にもそれを奨めていたし、その結果を見て上司は良くやったと褒め称え、接客者は得意気だった。当時の僕も最初は言われた通りに接客し上司から教わった通りに接客し非球面レンズの素晴らしさをおうむ返しの様に繰り返した。

売上は

売上本数×一式単価

で構成される。本数を一気に上げるには人を動員しビラを配る、新聞の折込に入れる。そんな広告が費用対効果はともかく売上本数を上げるには効果があった。だが会社が傾けばそんな広告費も枠が絞られ結局本数を急激に上げる魔法無いとは社内の会議でも

社長を始め、僕も含めてそんな魔法は存在しないと結論付けた。もしも当時に戻れるのなら僕は単価アップの安直な手法は 顧客満足度を下げる要因となっています。ここはじっくり構えて親身な接客スタイルに返り単価アップは捨て満足度を上げる事で長期的に本数を上げる戦略に方向転換しましょうと言うかもしれない。

それでは会社が成長軌道にのったとしてもその頃には会社は無くなってしまうと一蹴されるかもしれないし、実際にその会社は不渡りをだし倒産した。明らかに僕の力不足だったと言える。お世話になった社長に何の恩返しも出来ずに終わってしまった。

そんな苦い経験を経て僕は独立した。元々天邪鬼なせいか、僕は思い切ったお店を作ろうと決めた。業界内に蔓延る単価アップ病は量販店だけの問題ではなく業界全体が顧客から信頼されず、そして見捨てられると思ったのだ。だから僕は単価アップを捨てた。そして本数は売れるのは知れてる、また僕の技量で作れる本数も一日数本とこだわった眼鏡を作ろうと思えば限界は自ずと決まってくる。そうなのであれば一式単価の設定は余裕を見る必要がある。だから粗利益はしっかり取ろう。その代わりに技量のない僕は精一杯のサービスをしようと心掛けた。

それが新宿のお師匠との出会いで教わった両眼視機能検査であった。この検査で決められた度数を機能させようと思えば僕の想像を超える程に手間が掛かった。松下幸之助は価格は安く出来る限界まで安過ぎるくらいに設定しなさいと経営論を論じたそうだが、僕に言わせてもこれだけ手間を掛ければ充分に安いと胸を張って言えた。そして粗利益はしっかりとっても利益額では余裕の無い僕は創業当初から自分は単価アップという接客手法を捨てるばかりか単価ダウンの提案が出来ないかどうか顧客の立場にたって提案する事を心掛けた。

今まで従業員に言われるままに高価格レンズを購入していた人に僕は

「あなたにはこんな高いレンズは不要だ。高屈折レンズにする事で逆に性能を落としているのですよ。」

と堂々と提案した。その時のお客様の反応は様々だがそんな顧客の立場に立って説明をしてレンズを決定する店員に初めて会ったという方は僕を信用してくれた。

だが顧客の喜ぶ様を見て僕は勇気と自信を頂くのだが実はその顧客の立場に立って提案している僕自身には以前のような後ろめたさはまるでなく逆に顧客をどうしたら喜ばせる事が出来るか、それだけに集中出来た。単価アップを捨てて売上本数が伸びなければ当然月末の支払いの苦しい時は創業時には特に有ったのでそんなお金のストレスは当然有ったが、顧客に喜ばれ、そして信用される接客という仕事にはストレスは皆無に等しく、時には感動の涙を流し、時にお客様が喜んでいる様を見る事は快楽に感じる程だった。

これは僕が僕と妻とで二人でやっているお店だから人件費も知れているし意思の疎通にもそれ程支障は無かった。
だが僕のお店にいつの日か独立を目指す若者が丁稚奉公に来たとしてその従業員の給与を考え、またはその従業員のポストを考えた時に堂々と僕は

「売上は考えるな、顧客満足だけを考えろ。」

と言い切れるだろうか?もしもそんな場面が来れば僕にとっての大きな試練で、今までの経験からすればもしもそれを乗り越えられればきっと何だか分からないが、ご褒美が待っているだろう。

先がどうなるか分からない、でもそんな日を夢想するのもたまには悪くない。

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